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4 追いかけっこ

Auteur: 鈴田在可
last update Date de publication: 2026-03-17 21:44:46

 幸いにしてあれだけしつこかった男も追いかけては来なかったので、ナディアは貞操を死守することに成功はしたものの、周囲の光景を見てただ唖然としていた。

(ここ、里じゃない)

 舗装された道路に、整然と並んで建つ建物。馬車が何台も行き交い、歩道を歩く人々はみな人間で、獣人なんて一人もいない。

 おそらくどこかの人間の街だ。ナディアは父の自室で意識を失った後に、あの男のそばで素っ裸で目覚めるまでの間に、里から連れ出されていたことを理解する。

(誰に?)

 ナディアの脳裏には、自分の指を噛みながら怪しい目つきでこちらを見るミランダがいた。彼女は魔法使いだった。

 こんなことができるのはきっとミランダか、先程の得体の知れない男か。

 ナディアの胸に、騙された、という思いが宿る。

 ミランダはおっちょこちょいで寂しがり屋で頼りなさそうな雰囲気を常に醸し出していた少女で、ナディアはそんな彼女を放っておけずにいつも面倒を見ていた。ミランダもそんな自分を慕ってくれていて、いつしか獣人と人間の垣根を超えた友情を感じるようになっていた。ミランダを妹のように大切に思っていた。それなのに、おそらく彼女は敵だったのだろう。

 ナディアは暗い気持ちになりながら、自分が今いる居場所もわからずにとぼとぼと道を歩いていた。途中で飲食店の大きな看板が目に入り、首都の名前が書かれていたことから、ここが首都だとわかる。

(ミランダは私を首都まで連れてきて一体どうしたかったの?)

 道行く人に獣人だとわかればきっとナディアは捕まって殺されてしまう。人間社会では獣人は「悪」そのものであって、見つかれば殺処分だ。

 ナディアはミランダが自分を殺そうとしてここまで連れてきたとは思いたくない。彼女は瀕死のリュージュを魔法を使って助けていたし、根は悪い子じゃない。

(まさかとは思うけど、ミランダは私をさっきの男と番わせようとしたのかな……)

 あの男に襲われかかっていたことを思い出して、ぶるりと体を震わせていると、鼻腔がミランダの匂いを嗅いだのでナディアはハッと立ち止まった。振り返ると、暗い顔をしたミランダがすぐそばまで来ていた。

「ミランダ、一体どういうつもりなの?」

「ごめんね、ナディアちゃん……」

「私のことを裏切ってたの? 私を首都まで連れてきてどうするつもりよ?」

「ごめん、本当にごめん…… でも俺が絶対に何とかするから、もう少しだけ待ってて。必ず俺たちの結婚をあのクソ親父に認めさせてみせるよ」

「ん?」

 ナディアは首をかしげた。話が全く噛み合っていない。しかも声はミランダのものなのに、やはり自分のことは「俺」と言うし、砕けた口調もいつものミランダらしくない。

 ナディアは目の前の少女が得体の知れない存在に変わってしまったように感じた。

「結婚は認めないなんて発言、必ず撤回させてみせる! 俺は絶対に諦めない! 俺たちの真っ直ぐな愛があんな唯我独尊横暴親父の一存で握り潰されていいわけがない! 俺には君だけなんだよナディア! 愛しているんだ! 必ず君と添い遂げたい! ナディアちゃーん!」

 バッと腕を広げてミランダが抱きついてこようとするので、ナディアは咄嗟に逃げた。直前のミランダの独白から身の危険を感じてしまい、その感覚が先程の男に対して感じてしまったものと被る。

「逃げないで! 俺の天使様女神様ナディア様! 君の豊かな胸で俺の全ての愛を受け止めてくれ!」

「ひいっ」

 ナディアは全速力で走って逃げた。すれ違う人がこちらに驚いた目を向けてくるが知ったことか。ミランダがおかしくなってしまった。

 獣人のナディアが全力で走っているというのに、人間のミランダが同等の速度で走って追いついてくる。

(信じられない! 魔法か何か使ってるの?)

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